日本では、あまり積極的な寄付をしている場面を見ることは少ないですよね。なぜ日本人は、寄付意識が低いのでしょうか。そもそも他国と比べて、日本の寄付金額は少ないのでしょうか。
今回は他国との寄付金額の差をお伝えしつつ、日本の寄付意識の実態を考察して解説します。
また、寄付文化を浸透させるために必要なことや日本でできる寄付のスタイルなども説明するので、ぜひ最後まで参考にしてください。
日本の寄付の現状を知って、ぜひなにかできることはないか考えるきっかけになればと思います。
日本の寄付金額は少ない!アメリカの30分の1
日本の寄付金額は他国に比べて、かなり少ないです。
2020年の日本・アメリカ・イギリスの寄付金額を、下記にまとめました。
国名 | 日本 | アメリカ | イギリス |
寄付金額 | 約1.2兆円 | 約34.6兆円 | 約1.5兆円 |
参照:寄付白書2021
日本の寄付金額は、アメリカの約30分の1です。イギリスと比べても、約3,000億円少ない結果でした。
なぜ日本は他国より寄付金額が少ないのでしょうか。
日本が他国に比べて寄付金額が少ない7つの理由
日本が他国に比べて寄付金額が少ない理由は、主に下記の7つです。
- 宗教上の理由で寄付文化が根づいていない
- 日本人は3割しか慈善団体を信用していない
- 寄付金控除の上限額が少ない
- 寄付できる団体数が少なくて選択肢がない
- 寄付年金の制度がない
- 今の収入に寄付できるだけの余裕がない
- 日本人は自己責任の意識が強い
上記を知れば、日本の寄付意識が低い背景が分かるので、それぞれ説明します。
宗教上の理由で寄付文化が根づいていない
日本では無宗教者が多く、そもそも寄付をする意識が根づいていません。
例えば、アメリカで最も信仰されているキリスト教では、富を持つ人は貧しい人に分け与えるべきだ、という教えがあります。その教えから、アメリカ人の多くは寄付をすることを当たり前だと思っているのです。
また、キリスト教に次いで信仰者の多いイスラム教にも、同じく寄付を促す教えがあります。喜捨という考え方で、裕福な人は富を喜んで貧しい人へ分け与えるべきというものです。
日本で最も信仰されている仏教にも、お布施という寄付の考え方があります。しかし、2018年に行われたISSP調査によると、62%の日本人が「信仰している宗教はない」と回答しているのです。
つまり、日本人は寄付意識を高める宗教を信じている人が少ないため、自発的な寄付につながらず、寄付金額が少なくなっていると考えられます。
宗教上の理由が、日本の寄付金額の少なさに関係しているのです。
日本人は3割しか慈善団体を信用していない
日本人は3割しか慈善団体を信用していないという不信感が、寄付意識を低くしています。
世界価値観調査の第7波調査によると、日本では慈善団体に対して「非常に信頼する」と回答した人が2.2%、「ある程度信頼する」と回答した人が29.1%でした。つまり、合わせて31.3%の人しか、慈善団体を信頼できると思っていないのです。
日本人は、慈善団体の活動や寄付金の用途について懐疑的になっているといえます。そのため積極的な寄付が行われず、寄付金額が少なくなってしまっているのです。
寄付金控除の上限額が少ない
日本は寄付による税制優遇が他国より劣っていて、寄付をする動機づけが弱くなっていると考えられます。
寄付をすると、寄付金控除という制度が利用でき、課税対象になる所得を少なくできるのです。結果、所得税や住民税を安くできます。
寄付金控除はアメリカも導入しており、所得の50%までが控除の対象になる設計です。一方、日本は所得の40%までを上限に設定されています。
当然、上限より多く寄付をしようと思う人は少ないので、日本での寄付金額が抑えられてしまうのです。寄付による税制優遇の制度自体が、日本は他国より劣っています。
寄付できる団体数が少なくて選択肢がない
日本では寄付できる団体が他国に比べて少なくて、寄付先の選択肢が狭く、寄付につながりにくいです。
ニッセイ基礎研究所のレポートによると、寄付金控除が認められる団体数は日本が約2万2,000に対し、アメリカは130万を超えていると推計されています。それほどアメリカは寄付先が豊富にある一方、日本では少ないのです。
寄付先の選択肢の狭さが、寄付金額を抑えてしまっているといえます。
寄付年金の制度がない
日本には寄付年金という制度がなく、寄付をするメリットが少ないため、寄付金額が増えないと考えられます。
寄付年金とは、指定の寄付先に寄付をすると、生存している間は一定の年金がもらえる制度です。アメリカでは、1843年から正式に寄付年金制度を導入しており、老後の資産形成に向けて寄付をするという人がいます。
しかし、日本では寄付年金制度はまだ導入されていないため、将来に向けて寄付をするという考え方が生まれないのです。
寄付年金制度の有無が、日本の寄付意識を低くしています。
今の収入に寄付できるだけの余裕がない
日本人は収入が伸び悩んでいるにも関わらず、物価が上がっているため、寄付に回せるお金の余裕がないという理由も考えられます。
下記のグラフは全国労働組合総連合が調査した、実質賃金指数の推移です。実質賃金指数とは、収入と物価の増減を加味した実質的な賃金の指数を指し、高くなれば賃金が増えているといえます。
引用:全国労働組合総連合
1995年から調査が開始されており、日本の実質賃金指数は2016年に至るまで低迷し続けています。つまり、日本人が自由に使えるお金は増えていないのです。
収入は変わらないにも関わらず、物価は上がっているので、生活が苦しくなってきたと感じている人が増えています。そのため寄付をする余裕がなくなっていると考えられるのです。
日本人は自己責任の意識が強い
日本人は生活の豊かさについて自己責任の意識が強く、他者を助けようという考えになりにくいため、寄付につながりません。
OECDの統計データを基にした厚生労働省の国際比較調査によると、「政府は貧しい人たちに対する援助を減らすべき」という意見に対し、17%の人が肯定していました。この割合は、調査対象の10ヶ国中4位と少し高い結果です。
つまり、貧しい人たちは政府に頼らずに、自助努力で生活を立て直すべきだと考えているといえます。
自助努力すべきという考え方では、寄付をしようという考えにはつながりません。日本人の持つ自己責任の意識が、寄付文化が広まらない背景にあると考えられます。
日本の寄付金額は伸びている!有事の時は寄付意識が高まる
日本人の寄付金額は他国に比べて低いものの、年々増加はしています。
下記が2009年から2016年、および2020年における日本の寄付金額の推移です。
西暦 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2014年 | 2016年 | 2020年 |
寄付金額 | 5,455億円 | 4,874億円 | 1兆182億円 | 6,931億円 | 7,409億円 | 7,756億円 | 1兆2,126億円 |
参照:寄付白書2021
上記のように、2020年時点の寄付金額は、2009年と比較すると約2倍まで増加しています。最も大きな増加理由は、2015年に行われたふるさと納税のワンストップ特例制度の導入です。
ワンストップ特例制度とは、ふるさと納税による寄付先が5自治体以内の場合、確定申告を不要とするものです。
2015年まで、日本人の大半を占める会社員がふるさと納税をするには、確定申告が必要でしたが、ワンストップ特例制度によって不要になりました。
結果、節税メリットのあるふるさと納税の利用が進み、寄付金額が増加しました。
また、2011年の寄付金額が前年に比べて急激に増加しているのは、東日本大震災による被災地への寄付があったからです。2011年だけで、震災に関する寄付は5,000億円にのぼり、それだけで前年の寄付金額を上回っています。
これらから分かるのは、日本人は決して寄付自体を拒んでいるわけではないということです。寄付をするメリットや意義があれば、寄付をする意識はあります。
では寄付文化を日本に浸透させるためには、今後なにが必要なのでしょうか。
日本に寄付文化を浸透させるために必要な4つのこと
日本に寄付文化を浸透させるためには、下記の4つが必要でしょう。
- 寄付が社会貢献にどれだけつながるか啓蒙する
- NPO団体の情報を積極的に公開・発信する
- 寄付に関する教育を幼少期から行う
- 寄付による税制優遇を手厚くして手続きを簡単にする
上記は寄付をする日本人の増加につながるので、それぞれ説明します。
寄付が社会貢献にどれだけつながるか啓蒙する
寄付をすることで、どれだけ社会貢献につながるかを積極的に啓蒙することは大切です。
例えば、日々のニュースや新聞、CMなど多くの人の目に触れるところが良いでしょう。慈善団体への寄付は、貧しい子どもや障がい者のサポート、動植物の保護などあらゆる社会貢献につながっています。
しかし、寄付によってどのような社会課題の解決につながるのか、詳しく知らない日本人は多いでしょう。ニュースや新聞、CMなどで寄付による社会貢献を今まで以上に知ってもらえれば、寄付をするきっかけにつながります。
NPO団体の情報を積極的に公開・発信する
NPO団体の情報を公開し、発信することも寄付金額の増加につながるでしょう。
日本人がNPO団体のような慈善団体を疑っているのは、活動内容や寄付の使い道が不透明だからです。なのでNPO団体の情報を公開するのはもちろん、積極的に発信すれば、疑いが晴れて寄付をしようと考えるでしょう。
NPO団体の情報公開・発信が、日本に寄付文化をさらに浸透させるカギです。
寄付に関する教育を幼少期から行う
学校教育の段階から、寄付の大切さを伝える授業をすれば、寄付を当たり前に思う人が増えます。
幼少の頃から寄付は当たり前のようにするべきと教えられていれば、寄付に対する抵抗がなくなるでしょう。教育機関も協力して、寄付意識を高める活動をするのが大切です。
寄付による税制優遇を手厚くして手続きを簡単にする
寄付による税制優遇を今より手厚くしたり、手続きを簡単にしたりすれば、さらに寄付金額の増加が期待できます。
例えば、下記のような改善を行えば、効果的でしょう。
- 寄付金控除の対象になる上限額を上げる
- 寄付金はすべて確定申告せずに税制優遇が受けられるようにする
節税効果を上げつつ、手続きの簡単さが広まれば、寄付をする人と金額が増えると考えられます。
日本できる寄付のスタイル8つ
現在、日本ではどのような形式で寄付ができるのでしょうか。
日本でできる寄付のスタイルは、主に下記の8つです。
- NPO法人の公式サイトから寄付
- ふるさと納税
- クラウドファンディング
- コンビニのレジにある募金箱に寄付
- 駅前で行っている募集活動に対して寄付
- 余ったポイントやマイレージで寄付
- 不用品や余った食べ物を寄付
- 遺贈寄付
寄付のスタイルを知っていれば、様々な場面で寄付できるようになるので、それぞれ説明します。
NPO法人の公式サイトから寄付
NPO法人の公式サイトから、直接寄付することができます。
基本的に口座振込かクレジットカードでの寄付が可能です。クレジットカードであれば、毎月定額の寄付もできます。
自分が貢献したい社会課題に取り組んでいるNPO法人の公式サイトへいき、積極的に応援しましょう。
ふるさと納税
ふるさと納税とは、各都道府県の地方自治体に寄付をすることで、寄付金控除に加えて返礼品というお礼をもらえる制度です。返礼品にはカニやウニなどの海産物や牛肉や豚肉などの肉類、果物や日用品など多岐にわたります。
節税につながるのはもちろん、自治体からの返礼品の金額を加味すると、寄付金額以上に得する場合があるので、人気が高い寄付方法です。
また、5自治体以内の寄付であれば、確定申告せずに税制優遇を受けられます。ふるさと納税は、節税メリットと手軽さが魅力的な寄付方法です。
クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、プロジェクトを立ち上げた人や法人に対して、不特定多数の人がお金を分け与える仕組みです。
クラウドファンディングには、購入型・融資型・寄付型の3種類があります。
- 購入型:プロジェクトに対してお金を支援して、モノやサービスを得る
- 融資型:プロジェクトに対してお金を融資して、利息を得る
- 寄付型:プロジェクトに対してお金を寄付して、お礼の手紙や写真などを受け取る
このうち寄付型のクラウドファンディングであれば、寄付金控除の対象になる場合があるのです。クラウドファンディング上で自分が貢献したい社会課題に取り組んでいる団体はないか、チェックしてみてはいかがでしょうか。
コンビニのレジにある募金箱に寄付
コンビニのレジ付近にある募金箱からも、寄付ができます。
現在、一部のコンビニでは募金箱だけではなく、コンビニ内の専用端末からクレジットカードやポイントで寄付できるようになりました。
ちなみに、コンビニからの寄付でも、寄付金控除の対象になる場合があります。
コンビニの買い物でのお釣りを募金箱に寄付したり、コンビニに行く度に専用端末から募金してみてください。
駅前で行っている募集活動に対して寄付
駅前で行われている募金の募集活動に対しても、寄付ができます。
通勤や通学の時に募集活動を見かけたら、小銭でも寄付してみてはいかがでしょうか。
その場で募集活動をしている人から感謝されるので、きっと気分が良くなります。
余ったポイントやマイレージで寄付
余っているポイントやマイレージも寄付できます。
一般的にポイントは買い物や他のサービス料金に使うことが多いでしょう。しかし、実はポイントやマイレージの交換先の選択肢には、基本的に慈善団体への寄付があります。
もし有効期限を迎えそうにも関わらず、利用予定がないのであれば、ポイントやマイレージを寄付すれば、ムダなく消費可能です。ただし、寄付の領収書が発行されないため、寄付金控除は受けられません。
不用品や余った食べ物を寄付
不用品や食べ物などのモノを直接寄付することも可能です。
子育てで使ったおもちゃや子ども服、作りすぎてしまった食品などを寄付の対象にできます。不用品の整理も兼ねて、モノの寄付も検討してみてはいかがでしょうか。
遺贈寄付
遺贈寄付とは、個人が亡くなった時に遺言や契約などを基にして、財産を慈善団体に寄付することです。
亡くなったのを機に寄付をするため、後世に自分の意志を伝えられるのと同時に、社会貢献ができます。
もし寄付先に困っていたら、遺贈寄付プランナーという専門家がいるので、相談してみてください。また、実際に遺贈寄付するなら、あらかじめ遺言に寄付内容を記載しておくとスムーズです。
生前の元気がある時に、遺言を用意しておきましょう。
日本の寄付に対する意識は他国に比べて低いが改善の余地はある!
日本はアメリカに比べて、30分の1ほどしか寄付していないのが現状です。
そこには宗教上の理由や節税メリットの少なさ、国民性などあらゆる原因が関係しています。
とはいえ、日本人は有事の時はもちろん、寄付をするメリットや意義を知れば、寄付を行うことが分かっています。今まで以上に寄付のメリットを増やしたり、手続きを簡単にしたりして発信すれば、寄付文化はさらに広まっていくでしょう。
また、日本ではお金だけでなく、モノを寄付することもできます。もしお金やモノに余裕があったら、積極的に寄付をして、社会貢献してみてはいかがでしょうか。