CSRという言葉を耳にしたことがあっても、具体的によくわからないという方もいるでしょう。
CSRとは企業の「企業の社会的責任」という意味で、日本のみならず世界中で社会的責任を果たすための活動が盛んに行われています。
この記事では、CSRの意味や歴史的背景をはじめ、活動内容などをわかりやすく解説します。
さらに、実際にCSR活動を実施できるよう手順も記載したのでぜひ参考にしてください。
CSR(Corporate Social Responsibility )とは
CSRはCorporate Social Responsibilityの頭文字を取った単語で、「企業の社会的責任」のことです。
企業活動において、環境や次世代への配慮、利害関係者への責任ある行動などを実践する活動となっています。
また、実践するだけでなく顧客・従業員・株主・地域社会などへその活動を説明することも求められるのです。
CSRは、2010年にISO (国際標準化機構) が発行した正式なガイドラインである国際規格ISO26000 に基づいて定義されています。
この規格には、7つの原則と7つの中核主題が掲げられており、企業を含む全ての組織が取り組む義務があるとされています。
CSRは日本独自の考え方ではなく、世界中で取り組みが推奨されているものなのです
CSRの7つの原則
ISOの正式なガイドラインに基づいたCSRの7つの原則は以下のとおりです。
原則 | 内容 |
---|---|
説明責任 | 企業活動が社会に与える影響を説明する |
透明性 | 企業活動の透明性を示す |
倫理的な行動 | 公平・誠実な倫理性を持って企業活動を行うする |
ステークホルダーの利害尊重 | ステークホルダー※の利益や意見を尊重する |
法の支配の尊重 | 事業活動する国や地域の法令を遵守する |
国際行動規範の尊重 | 国際的な行動規範やガイドラインを尊重する |
人権の尊重 | 重要かつ普遍的な人権を尊重する |
※ステークホルダー:企業に関わる全ての利害関係者のこと
上記の原則に基づいて、企業は活動していくことを求められます。
CSRの7つの中核主題
さらに、CSRには以下の7つの中核主題があります。
中核主題 | 内容 |
---|---|
組織統治(ガバナンス) | 組織目的を達成するために、有効な意思決定の仕組みをつくる例:内部統制の強化、利益相反の防止 など |
人権 | 直接的な侵害だけではなく、間接的な影響も考慮する例:児童労働の禁止、差別の排除 など |
労働慣行 | 労働習慣に対する配慮をする例:ワークライフバランスの推進、労働環境の改善 など |
環境 | 環境の持続可能性を考慮する例:省エネや二酸化炭素の削減 など |
公正な事業慣行 | 他の企業との取引する際は、社会に対して責任と倫理観のある行動を行う例:コンプライアンスの遵守、公正な競争 など |
消費者課題 | 消費者に対する配慮を行う例:プライバシーの保護、品質管理 など |
コミュニティへの参画・発展 | 拠点のある地域の発展や貢献に寄与する例:地域社会支援、ボランティア活動 など |
上記は世界中の企業のスタンダードとして認識されています。
企業は利益の追求も大切ですが、社会の一員としての自覚を持って上記を守ることが大切です。
日本でCSRが求められ始めた歴史
日本でCSRが求められ始めた主な歴史は以下のとおりです。
- 1956年:経営者の社会的責任が提言される
- 2003年:日本におけるCSR元年
- 2008年以降の企業とCSR活動
時代によって求められる内容が少しずつ異なるため、時系列に沿ってそれぞれ説明します。
1956年:経営者の社会的責任が提言される
経済同友会の資料によると、経営者の社会的責任が提言されたのは1956年です。
日本でCSRが求められ始めた歴史的背景には、高度経済成長があります。
社会全体が利益を求めて活発に経済活動を行ってきた結果、企業の身勝手な行動や不祥事が連続して発覚しました。
この結果、公害問題に発展したり、企業の社会的信頼が失われたりしました。
上記のような背景もあり、改めて経営者の社会的責任が提言されるようになったのです。
2003年:日本におけるCSR元年
ヨーロッパのCSRを取り入れて、よりグローバルな視点でCSRが必要であると考えたのが2003年です。
2003年以降は、企業単体ではなくステークホルダーや地域社会との共存まで意識されるようになりました。
その結果、以下のような取り組みが重要視されるようになります。
- 法令遵守
- 社会貢献
- ステークホルダーを意識した商品やサービス開発
- 労働環境改善
- 地域社会の共存
また、CSR活動を目的とした協業も注目されるようになりました。
2008年以降の企業とCSR活動
2008年のリーマンショック以外にも、日本は震災や自然災害などを原因とする経済的打撃を受けました。
このような困難の中でも企業が持続可能な事業活動を行うには、CSRの視点が欠かせないと考えられたのです。
また、インターネットが普及したことで企業活動が消費者に伝わりやすくなったため、消費者からも企業がCSR活動を遵守しているか重要視されるようになります。
今日では自社活動や商品・サービスへの信頼を得るために、CSR活動は無視できないものになっているのです。
CSRが重要とされる背景
CSRが重要とされる背景は以下のとおりです。
- 企業活動のグローバル化
- 環境問題の深刻化
- SNSの普及
歴史的背景が絡むものや時代の流れが関わっているものまであるので、それぞれ解説します。
企業活動のグローバル化
企業活動のグローバル化により活動規模が拡大しているため、CSR活動が以前にも増して重要になっています。
企業が社会に与える影響は、良くも悪くも日本のみならず世界中で課題になっています。
例えば、多国籍企業において、発展途上国の人々の人権を無視した取り組みをしているのは大きな問題です。
また、商品やサービスを海外に販売したり、海外の人材を採用したりなどするとなると、人々の生活などに大きな影響を及ぼします。
そのためグローバルに活動していくにあたって、CSRを重要視していないと経済活動においてリスクになるでしょう。
環境問題などの社会問題の深刻化
環境問題を代表する社会問題の深刻化は、企業のみならず多くの人が関心を寄せています。
地球温暖化や気候変動、資源の過剰利用などの問題は未だ解決されていません。
日本の歴史を振り返ると、1960年代の高度経済成長の時に公害によって多くの犠牲者が出てしまった背景があります。
この時に、排煙や排水を出した工場を持つ企業が裁判にかけられるような出来事が起きました。
このような歴史もあり、環境問題に対する関心は現在でも高くなっています。
その他にも、少子高齢化など社会問題は山積みであるため、CSRを意識した企業活動が求められているのです。
SNSの普及
昨今のSNSの普及により、企業の不祥事や悪い噂などはインターネット上で拡散されやすい環境にあります。
つまり、悪質な企業や業者の評判が報道などと比較して、以前よりも早く多くの人に伝わりやすい状態にあるのです。
もし大きなトラブルを起こせば、あっという間に情報が拡散して、顧客や取引先が離れて経営に悪影響を及ぼしやすい状況にあります。
そのような事態を未然に防ぐために、CSRに取り組むのは非常に重要なのです。
CSRの活動例
CSRの活動例を経済・環境・社会の3つの側面からまとめると以下のとおりです。
側面 | 活動の代表例 |
---|---|
経済 | 消費者が不利益を被らない製品作り売買基準を明確にする取引先との公正な取引 |
環境 | 植林活動節水CO2削減 |
社会 | 女性の地位向上に向けた活動障がい者雇用災害時の企業対応 |
上記以外にもさまざまな活動例はありますが、ここではそれぞれの側面から代表的なものを順に解説します。
経済面
経済面からみたCSRの活動例は以下のとおりです。
- 消費者が不利益を被らない製品作り
- 売買基準の明確化
- 取引先との公正な取引
企業の経済活動によって得られる利益配分のあり方を工夫するのが、経済面のCSR活動といえます。
特に自社の利益ばかりを追求するのではなく、取引先や消費者、従業員などすべての関係者の利益を追及する考えが求められます。
環境面
環境面からみたCSRの活動例は以下のとおりです。
- 植林活動
- 節水
- CO2削減
地球環境を守る活動は、多くの人が関心を寄せているものです。
環境に配慮した製品開発をはじめ、輸送時のCO2削減などが挙げられます。
企業によっては、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001の認証を取得する場合もあります。
また、持続的な資源の確保などを通じて、事業を継続しやすくする狙いもあるでしょう。
社会面
社会面からみたCSRの活動例は以下のとおりです。
- 女性の地位向上に向けた活動
- 障がい者雇用
- 災害時の企業対応
社会面は経済面や環境面よりもさまざまな取り組みがあります。
例えば、女性の地位向上に向けての活動では、女性管理職を積極的に採用するなどがあります。
また、障がい者雇用においては、厚生労働省の障がい者雇用のルールに基づいて、「従業員40人以上雇用している事業主は、障がい者を1人以上雇用しなければならない」とされています。
災害時の企業対応については、災害が起きた時に企業が持つ支援物資を被災地に届ける活動などが挙げられるでしょう。
また、日本国内だけでなく、世界の企業や地域との関わり方も含めた活動も社会面に属します。
CSRを重視するメリット
CSRを重視するメリットは以下のとおりです。
- ステークホルダーからの信頼を得られる
- 人材採用に良い影響がある
- コンプライアンス違反のリスクが下がる
CSRを重要視すると、巡り巡って事業に良い影響を与えるため、順に解説します。
ステークホルダーからの信頼を得られる
ステークホルダー(企業に関わる全ての利害関係者のこと)からの信頼を得られるのは、CSRを重視するメリットになります。
CSR活動を重視すれば、法令を遵守したり、利害関係のある人たちに対して責任ある行動をするからです。
結果、消費者や取引先から信頼を得て、さらなる事業の発展につながるでしょう。
人材採用に良い影響がある
CSR活動を重視すると企業イメージの向上につながり、その結果として人材採用にも良い影響があるでしょう。
例えば、従業員の待遇アップや福利厚生の充実などが挙げられます。
それらの活動を通して、企業の評判が良くなれば、新卒や転職希望者の間で志望者が増えたり、働き続けたい人が増えたりするメリットにつながるでしょう。
コンプライアンス違反のリスクが下がる
コンプライアンス違反のリスクが下がるのもCSRのメリットの1つです。
CSR活動に取り組むと、必然的にコンプライアンスのチェックを行うことになります。
その結果、法令違反などを早期に発見でき、裁判や行政上のペナルティ、社会的評判に傷がつく事態を未然に防げる場合があります。
CSRと似た言葉との違い
CSRと似たような意味合いを持つ言葉があります。これらと混同しないように、以下の表を参考にしてください。
用語 | 意味 |
---|---|
サステナビリティ | 将来にわたって現在の社会的機能を維持・継続できること。 |
SDGs | 持続可能な開発のための17の国際目標(持続可能な開発目標)のこと。 |
コンプライアンス | 社会的規範や法令の遵守 |
CSV(creating shared value) | 事業活動を通じた社会的課題解決がテーマ。同時に企業価値を向上させる経営手法の意味 |
ボランティア | 自発的な意思で、他人や社会に無償で働きかけること |
それぞれの言葉と、CSRとの違いをそれぞれ解説します。
サステナビリティ
サステナビリティは、将来にわたって現在の社会的機能を維持・継続できるという意味です。
これに対して、CSRはサステナビリティよりも社会に好ましい影響を自ら与えるという広い意味があります。
SDGs
SDGsは、持続可能な開発目標という意味の言葉です。
SDGsは持続可能な社会を実現するための活動全般で、企業だけでなく非営利組織や政府なども取り組むべきものです。
一方、CSRは企業が果たすべきもので、企業が行うべきことに重きが置かれています。
とはいえ、結果的に同じ取り組みを行う場合もあります。
SDGsについて詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
コンプライアンス
コンプライアンスとは、社会的規範や法令遵守の意味です。
CSRは、社会的規範や法令遵守をしたうえで、どのように社会的責任を果たすかが大切になるという点で異なります。
CSV(creating shared value)
CSVは事業活動を通じた社会的課題解決がテーマで、同時に企業価値を向上させる経営手法の意味でもあります。
つまり、CSRは無償の社会貢献活動も含まれますが、CSVは社会貢献と利益の追及のどちらも重要視したものです。
CSVが構築できることは、企業にとってCSRの理想形ともいえます。
ボランティア
ボランティアは、自発的な意思で人々や社会に無償で社会貢献活動を行うことです。
そのためCSRの活動にはボランティア活動も含まれます。
例えば、企業が主導して従業員が地域のゴミ拾いボランティアを行えば、CSR活動とボランティア活動を同時に行っているといえるのです。
CSR活動のデメリット・注意点
CSR活動のデメリットや注意点は以下の2つです。
- コストの増加が懸念される
- 業務効率が下がる可能性がある
企業活動に影響が出る場合もあるので、それぞれ解説します。
コストの増加が懸念される
CSR活動のデメリットは、コスト増加が懸念されるところです。
CSR活動を行うには、コストや人件費をかけて体制を整える必要があります。
しかし、その活動自体は業績アップに直接影響しない可能性があるため、ただコストが増加してしまう懸念があるのです。
また、実際に業績アップにつながるまで時間がかかる場合があります。
業務効率が下がる可能性がある
CSRのデメリットとして、業務効率が下がる可能性がある点も挙げられます。
CSR活動は本来の業務と関連性が薄い活動もあるため、注力しすぎると業務効率が下がる場合があるからです。
さらに、本来の業務が人手不足になる可能性もあります。
海外におけるCSR活動の取り組み
海外におけるCSR活動にはどのような歴史があるのでしょうか。ここではアメリカとヨーロッパでのCSR活動をそれぞれ解説します。
アメリカのCSR活動
アメリカはCSR先進国といわれ、1990年代の後半頃から徐々に体制が整備されるようになりました。
2000年代には、企業活動のグローバル化に対応して発展途上国の労働者を多く雇用しています。
また、米国の株式市場では、CSRに対して投資家の関心がとても高いです。
株価に好影響を与えるために、年間数千億単位のCSR関連の予算を確保している企業さえあります。
このような背景から、アメリカはCSR先進国とされているのです。
ヨーロッパのCSR活動
ヨーロッパでは2000年に採択された長期的な経済・社会改革戦略の目標達成に向けた取り組みでCSRが重要視され始めました。
ヨーロッパにおけるCSR活動は、EUでの意思決定に主導されることが多く、加盟国で大体の足並みが揃っているのが特徴です。
一方、日本では、国際協調の観点はあるものの、基本的に自国における状況を優先してCSRに関する方針などが策定されています。
CSR活動に取り組む手順
CSR活動に取り組む手順は以下のとおりです。
- 活動目的を定める
- 計画を立てる
- CSR活動を実施する
将来的な企業価値の向上に向けて、CSR活動を今のうちから行っていくとよいでしょう。
活動目的を定める
CSR活動に取り組むに、まずは活動目的を定めて明確にしましょう。
社会のニーズはもちろん、企業のミッションやビジョンに沿って目的を定めることが大切です。
目的の定め方はISO26000のCSRにおける7つの原則と7つの中核主題を参考にするとよいでしょう。
計画を立てる
活動目的を定めた後は、実施計画を立てます。
内容やスケジュール、予算などを計画して、実行可能かどうか検討してください。
なお、CSR担当者を決める場合でも、経営者自らCSRに関心を寄せて行動することが大切です。
実働はCSR担当者だとしても、経営者が対外的にアピールすることで会社全体でCSRに取り組んでいるというイメージを発信できます。
CSR活動を実施する
計画ができたら、実際にCSR活動を実施します。
その後、定期的に活動内容を振り返り、随時計画を見直すようにしましょう。
さらに効率的かつ良い方法がないか模索することが大切です。
評価・報告する
最後に、CSR活動をした評価・報告をします。
CSR活動は実施して終わりではなく、ステークホルダーからの信頼を得るなど自社で設定した目的に沿っているか評価します。
また、自社のホームページを通じて活動実績を公開しましょう。
対外的に発信し、多くの人にCSR活動に取り組んでいる事実を周知すれば、活動の効力が大きくなります。
CSR活動は企業や社会のより良い未来につながる
CSR活動とは、企業の社会的責任のことで、日本のみならず世界中で盛んに活動が行われています。
グローバル化や環境問題の深刻化、SNSの普及などを経て、今後も一層重要視されることでしょう。
企業や社会のより良い未来につなげるために、少しでもCSRを意識した活動をしてみてはいかがでしょうか。