人生の締めくくりに、遺贈寄付で社会貢献したいと考えていないでしょうか。
遺贈寄付は、社会貢献への思いを叶えるだけでなく、相続による遺族への負担を軽減する効果も期待できます。
この記事では、遺贈寄付の概要を解説しつつ、メリットや手続き方法、注意すべきポイントなどを解説します。
遺贈寄付とは
遺贈寄付とは、遺産の全部または一部を社会活動団体や民間非営利団体、自治体などに寄付することです。
遺贈寄付は、故人が生前に自らの意思によって遺言書作成や贈与契約を行い、本人が亡くなった際に財産の無償贈与が行われるのが一般的です。
なお、故人の子や配偶者などの遺族が、相続した財産の全部もしくは一部を寄付する相続寄付のパターンもあります。
寄付できるものは、金銭に限りません。
不動産や株式、有価証券を寄付することも可能です。
しかし、金銭以外の贈与は寄付先が受け付けていない場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
遺贈寄付が注目されている背景
遺贈寄付への認知度と関心は、近年高まりつつあります。
実際に50〜70代の遺贈寄付の認知度は65.3%で、昨年から+7.0%でした。
また、遺贈寄付が「子孫や親族の誇りになる(想いや人柄を伝えることができる)」と考える20代が48.2%と、どの年齢層よりも最も高い結果でした。
現在、若年層のほうが遺贈寄付に対してポジティブな印象を持っています。
上記から、これから遺贈寄付に取り組む人も増えてくるのではないかと考えられます。
遺贈寄付が注目されるようになった背景には、日本社会の現況を反映した以下2つの要因があると考えられます。
- 社会貢献への関心の高まり
- 生涯未婚率の増加
それぞれ解説します。
社会貢献への関心の高まり
1つ目の要因は、社会貢献への関心の高まりです。
日本は欧米諸国に比べて寄付文化の歴史は浅いですが、近年急激に高まりを見せています。
日本ファンドレイジング協会が発表した寄付白書2024によると、2020年の個人寄付の総額は1兆2,126億円と、10年間で2.5倍の規模に成長しました。
特に2011年の東日本大震災をきっかけに、寄付意識が高まっています。
生涯未婚率の増加
2つ目の要因は、日本の生涯未婚率の増加です。
配偶者や子といった法定相続人がおらず、遺言書がない遺産は、最終的には国庫に納められてしまいます。
そして、生涯未婚の人が増えているため、次世代に引き継がれない遺産が多くなっているのです。
実際にNHKが最高裁判所に取材したところ、相続人不在の理由で国庫に納められた財産の額は、2022年で768億円に上りました。
2013年と比較すると、倍以上に増えているのです。
国庫に納められるくらいなら、お世話になった団体や応援したい団体に寄付して、社会貢献したいと考えている人が増えているのです。
遺贈寄付をする理由・しない理由
日本財団が2018年に行った調査では、遺贈寄付の意向の理由についての回答結果は以下のようになりました。
「自分の財産を希望する社会貢献に役立てたいから」という回答が44%と、ほぼ半数を占めています。
人々の意識の中には、自分の財産の使い方は自分で決めたいというニーズがあることが分かります。
また、続いて多かった回答として、「税金(相続税)対策として」が21%、「家族や親族に迷惑をかけたくないから」が19%でした。
ここから遺贈寄付は遺族への配慮に役立つと期待されていることが分かります。
一方で、同調査において、遺贈への不安として感じていることを調べた結果は、以下のようになりました。
最も回答が多かったのは、遺贈寄付を行うための準備方法への不安です。
また、寄付先や自分に代わって遺贈を執行する人物への信用度も、不安に感じている声が目立ちます。
これらの遺贈寄付に対する不安を解消するためにも、生前に正しく理解することが重要です。
正しい理解が安心感を生み、スムーズに寄付を進められるでしょう。
遺贈寄付のメリット
遺贈寄付を行うことには、以下の3つのメリットがあります。
- 社会貢献の解決に役立てられる
- 財産の使い道を自身で選べる
- 相続税対策ができる
上記を理解して、遺贈寄付を検討しましょう。
それぞれを詳しく解説します。
社会課題の解決に役立てられる
自身の生涯で使いきれなかった遺産を活用する遺贈寄付は、自己負担を少なくしつつ、社会貢献への思いを実現できる手段です。
生前に寄付をしたいと感じていても、自身の生活があるうちはお金を捻出するのが難しい方も少なくないでしょう。
一方、遺贈寄付は、自身の生涯で使いきれなかった財産を寄付するものです。
そのため生前は慣れ親しんだ生活水準を保ちつつ、それでも余った財産を社会貢献に役立てるため、余生も死後も充実させることができます。
遺産の使い道を自身で選べる
遺贈寄付を行うと、遺産の使い道に自身の意思を反映できます。
故人の遺言がない場合、遺産は相続人に渡って使い道は相続人にゆだねられます。
また、血縁者などの相続人がおらず、遺言も遺されていない遺産は、最終的には国庫に納められ、使用用途や範囲を指定できません。
自身の生きた証として、自分らしい遺産の使い方を指定したい場合は、生前に遺言書を残すなどの準備が必要です。
その際に社会のために役立ちたいという最後の思いを叶えられるのが、遺贈寄付なのです。
相続税対策ができる
遺贈寄付を行うと、遺族が担う相続税の負担を軽減できる可能性があります。
通常、遺族などの相続人が相続する遺産が基礎控除額を超える場合、相続税が発生します。
しかし、遺贈寄付を行った財産は相続税の課税対象から外れるため、相続税の節税につながるのです。
また、故人に所得税が発生する場合、寄付先が地方公共団体や認定NPO法人であれば、遺贈金額を寄付金控除の対象とできる可能性もあります。
遺贈寄付のデメリット
遺贈寄付のデメリットは以下の3つです。
- 相続人への配慮が必要になる
- 手続きの手間が発生する
- 必ず望むように寄付できるとは限らない
後悔のない遺贈寄付を行うために、それぞれのポイントを押さえましょう。
相続人への配慮が必要になる
遺産の相続人がいる場合、遺贈寄付に対して相続人の理解が得られるよう細やかな配慮が必要です。
遺産の配分は、遺族にとって大変デリケートな問題です。
遺贈寄付が争いの火種とならぬよう、相続人との関係性やそれぞれの心情に配慮した心配りが重要となります。
寄付額によっては相続に回す財産に影響を及ぼすため、誰も不幸にならない相続となるよう、生前に話し合っておくべきです。
手続きの手間が発生する
自らの意思で遺贈寄付を行うためには、遺言書の作成や贈与契約の締結など、事前の準備が必要です。
書類作成に加えて、円滑な寄付を目指すためには、関係者の了承を事前に得ておくことも必要です。
寄付先に事前に遺贈寄付の了解を得ておけば、遺産の受け渡しがスムーズに進むでしょう。
また、遺言が実現するように取り仕切る遺言執行者を選定し、頼んでおくことも必要です。
生前にこれらの準備に時間や労力を要することは、遺贈寄付のデメリットといえます。
必ず望むように寄付できるとは限らない
寄付者の思いと、寄付先の思いが必ずしもマッチングするとは限りません。
遺贈寄付を希望しても、寄付先はその条件や財産を受け入れられない可能性もあります。
いわゆる、ありがた迷惑となってしまうケースです。
自身の一方的な思いだけで寄付するのではなく、寄付先の団体が求めているものを考慮しましょう。
相続より遺贈寄付が向いているケース
遺贈寄付のメリットとデメリットを踏まえて、遺贈寄付に向いていると考えられるケースは以下の4つです。
- 社会貢献の思いを叶えたい
- 財産の相続人になる人がいない
- 相続人同士の遺産分割協議による争いを避けたい
- 相続税対策をしたい
まとめると、遺産の使われ方に自身の意思を遺したい方や、相続人への負担を軽減する手段として活用したい方が検討するべきものの1つといえます。
遺贈寄付の手続き
遺贈寄付を実際に行う場合、どのような手続きが必要なのでしょうか。
ここでは最も一般的な「生前に遺言書を作成する」ケースでの流れを解説します。
(遺言書を作成して遺贈寄付する手順)
- 遺贈寄付相談の専門家や弁護士へ相談する
- 寄付先を選定する
- 財産の配分を決める
- 遺言執行者を決める
- 遺言書を作成する
- 遺言書を保管する
- 亡くなった後、遺言が執行されて寄付が実行される
後悔のない寄付先の選定と、法的な執行力をもつ遺言書の作成を行うため、1つひとつのステップを丁寧にこなすことが大切です。
また、遺贈寄付の手段には、遺言書を作成する以外に以下の選択肢もあります。
- 寄付先と死亡後に財産を寄付する死因贈与契約を締結する
- 寄付先を生命保険の受取人として指定する
最良の選択をするためにも、法律や遺贈寄付の知識に明るい専門家に相談するのがおすすめです。
また、遺族が相続財産を寄付する相続寄付の場合は、相続人が自らの意思で、寄付を行う流れとなります。
遺贈寄付で注意すべきポイント
遺贈寄付をスムーズに進めるために注意すべきポイントは、以下の3つです。
- 信頼かつ納得できる寄付先を選ぶ
- 相続人の遺留分に配慮して寄付をする
- 不動産などの寄付は受け入れられない場合がある
大切な財産を寄付する遺贈寄付を、トラブルなく進められるようにしましょう。
信頼かつ納得できる寄付先を選ぶ
大切な財産を託す寄付先は、慎重に選びましょう。
そのためには、寄付先に対する理解を深めることが重要となります。
寄付先の選び方はさまざまで、興味関心のある社会問題解決に取り組む活動を行っている団体や思い入れのある地域で活動している団体など、自分らしい選び方で行ってください。
なお、NPO法人に限らず、自治体や民間非営利団体に寄付する選択肢もあります。
寄付先の選定で最も大切なのは、あなたが寄付に込めた思いを受け取り、しっかりと叶えてくれる寄付先を選ぶことです。
そのためにも、団体の活動を間近で見られる機会に参加してみてもよいかもしれません。
信頼できる寄付先を見分けるポイントは、以下の記事で解説しているのでぜひ参考にしてください。
寄付後にどのように使われるのか具体的なイメージができるようになり、遺贈寄付への納得感を育めるでしょう。
相続人の遺留分に配慮して寄付をする
遺贈寄付においては、相続人の遺留分への配慮が必要です。
遺留分とは、故人の配偶者・子・直系尊属に民法から保証されている、相続遺産の配分です。
例えば、配偶者と子ども2人が法定相続人である場合、遺産全体の1/2は法定相続人で分け合う遺留分として確保されます。
つまり、配偶者が全体の1/4、子どもたちがそれぞれ全体の1/8が、遺留分となります。
遺言書や遺産分割協議によって、法定相続分と異なる割合で遺産相続を行ったり、寄付に遺産を使ったりすることは可能です。
しかし、法定相続人は遺留分を主張し、遺留分侵害額請求を行えます。
つまり、遺留分を超えて寄付が実行され、相続人が寄付に納得していない場合は、寄付先に遺留分侵害額請求を行う可能性があります。
結果、寄付先へ迷惑をかけてしまうことになりかねません。
トラブルを避けるためにも、相続人の遺留分に対する配慮は欠かさないようにしましょう。
不動産などの寄付は受け入れられない場合がある
遺贈寄付をする際は、寄付先の事情を考慮しましょう。
例えば、不動産などの寄付は、寄付先が望んでいなかったり、そもそも受け入れていなかったりするケースがあります。
無理に受け入れてくれたとしても、活用できなかったり、管理や売却などの手間が増えたりなど迷惑となる事態も考えられます。
寄付先に満足してもらうためにも、寄付先の希望を把握し、最大限に寄り添う気持ちを持つ姿勢が大切です。
また、不動産であれば、事前に売却を済ませて現金化して、現金を寄付する選択肢もあります。
加えて、遺贈寄付には包括遺贈と特定遺贈の種類があります。
包括遺贈は負債の遺産までを贈与してしまい、寄付先に迷惑をかける可能性がありますので注意が必要です。
特定遺贈であれば、指定の財産のみ寄付できます。
遺贈寄付は人生最後の社会貢献!納得のいくものにしよう
近年注目されている遺贈寄付は、人生最後の社会貢献を実現させる手段となりえます。
財産の使い道を自ら決められたり、遺族の担う相続税の負担を軽減させられたりするなどが大きなメリットです。
しかし、遺贈と相続はデリケートな関係性です。
生前から慎重に相続人や寄付先と協議を重ね、トラブルが発生しないように入念な準備を進めましょう。
最高の人生の締めくくりとして、大切な思いと財産を社会や人のために使えるよう、本記事を参考に遺贈寄付を検討してみてはいかがでしょうか。